こんにちは 院長の伊藤です。
残暑厳しい中、皆様のペット君達は夏バテしてませんか?
この1か月、私自身は手術に追われてブログの更新もままならなく、読者の皆様にご心配おかけしております。
1年ほど前の手術症例もまだブログにまとめる時間がないままでいます。
それでも、頑張って報告して行きますのでよろしくお願い致します!
本日、ご紹介しますのはハリネズミの子宮内ポリープです。
ヨツユビハリネズミのリッチョちゃん(3歳9か月齢、雌、体重370g)は激しい血尿が出るとのことで来院されました。
リッチョちゃんは、はるばる新幹線で兵庫県から来院されました。
血尿が続く症例では、全身状態が不良なことが多いです。
実際のところ、エコーで腹部,特に子宮を確認したいところなんですが、そのために全身麻酔をかけることは避けることとしました。
代わりにレントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸が子宮の部位になりますが、多少の腫大が確認できます。
卵巣・子宮全摘出を前提とした試験的開腹を行うこととしました。
早速、全身麻酔を実施します。
麻酔導入箱にリッチョちゃんを入れてイソフルランを流します。
麻酔導入が効いて来たリッチョちゃんです。
導入箱から出して維持麻酔に変えます。
この時点でリッチョちゃんの陰部から出血(黄色丸)が認められます。
このような出血量が日常的に続くようですと高度の貧血状態に陥ってしまいます。
四肢を固定し、剃毛を施します。
術野を消毒し、手術の準備ができました。
腹部の正中線にメスで切開をします。
切開部の真下には、腫大している子宮が認められます。
丸く巻いている子宮角が白く貧血色を呈しているのがお分かり頂けると思います。
長らくの出血で貧血が進行しているようです。
下写真の向かって右側の子宮角(黄色矢印)が腫大しています。
卵巣動静脈(黄色丸)をバイクランプを用いてシーリングをします。
80℃の高熱で動静脈がシーリングされているのを確認後、メスで離断します。
反対側の卵巣動静脈(下写真黄色丸)をシーリングします。
子宮頚部を縫合糸で結紮したところ、その圧迫で外陰部(下写真黄色丸)からガーゼに出血が認められます。
子宮内にある程度の出血した血液が貯留していると思われます。
子宮頚部をメスで離断します。
離断した子宮頚部(下写真黄色丸)の断面を縫合糸で縫合して行きます。
腹腔内に不正出血や他の病変(腫瘍など)がないか確認します。
特に問題はありませんでしたので、閉腹します。
皮膚を縫合して終了です。
今回は、点滴のための留置針が入れられなかったので皮下にリンゲル液を輸液します。
麻酔覚醒後のリッチョちゃんです。
術後の疼痛で不機嫌な表情です。
術後3時間後のリッチョちゃんです。
麻酔から完全に覚醒してインキュベーター内を徘徊できるようになりました。
手術翌日のリッチョちゃんです。
食欲も出て来ました。
しっかり、ハリネズミフードを食べてます。
下写真は摘出した卵巣・子宮です。
両子宮角を切開したところ、子宮角内膜が肥大膨隆しています(黄色矢印)。
肥大した子宮内膜には血腫(黄色丸)が認められます。
下写真は低倍像の病理所見です。
子宮内膜は子宮腺上皮細胞の増殖があり、
子宮内膜過形成となっています。
過形成構造の内部(下写真の空砲内)は液体が貯留しています。
この空砲をポリープと呼び、リッチョちゃんは
子宮内膜ポリープ及びびまん性の子宮内膜過形成と病理医から診断されました。
子宮内膜ポリープの拡大像です。
過形成化した子宮内膜の拡大像です。
腫瘍細胞は認められませんでした。
子宮内膜過形成は、過剰な長期にわたるエストロゲンやプロゲステロンによる子宮内膜の刺激が原因で生じるとされます。
そして、子宮内膜ポリープは子宮内膜過形成の延長にあると解釈されます。
いずれにせよ、これらの病変が子宮内の出血を引き起こします。
ハリネズミの場合は、出血量が多いことが特徴です。
出血が、何日も続くようですと手術を受けて頂く時には貧血が酷く、全身麻酔のリスクが高くなります。
ウサギ同様、雌のハリネズミで血尿が認められたら、子宮疾患を疑って早期の受診をお勧めします。
リッチョちゃんは術後の経過は良好で、2週間後には無事抜糸することが出来ました。
リッチョちゃん、お疲れ様でした!
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