こんにちは 院長の伊藤です。
今回はウサギの食欲不振に関わる疾病、ウサギ消化器症候群(RGIS)についてコメントします。
ウサギの外来で一番多いのが、食欲不振という主徴です。
歯が過長症で食欲不振だったりする場合もありますが、
消化器疾患が原因でなる消化管うっ滞を総称して、最近では国内外において
ウサギ消化器症候群(RGIS)と呼んでいます。
このRGISは食餌性、栄養性、異物の誤飲、消化管感染症、精神的ストレスなど各種の原因により発生します。
RGISのうち、本日はもっともポピュラーな毛球症について症例報告させて頂きます。
過去の私のブログ内においてもこのRGISの位置づけが不明瞭でしたので今後、消化器うっ滞を主徴とするものをRGISと呼び、さらに原因別に今回のように毛球症なり、異物摂取なり食餌性なりと細分化して分類して行きます。
難しいことはこれくらいにして、過去の症例報告に興味のある方は以下をクリック、参照下さい。
ウサギの毛球症
ウサギの消化器症候群(RGIS)
食欲不振のウサギ(RGIS)
ウサギの食滞(食餌内容物による胃内膨満)
ホーランドロップの月愛(ゆえあ)ちゃん(3歳、体重2kg、避妊済み)は朝になり突然、食欲元気が無くなったとのことで来院されました。
月愛ちゃんは視線も定まらず、軽度のショック症状を呈しています。
触診しますと胃がガスで膨満しているのが分かりました。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真黄色丸が胃です。
正常な胃の大きさはレントゲン上の腰椎3椎以内とされており、月愛ちゃんは腰椎8椎ぐらいに胃がガスで拡張・膨満していることが分かります。
側面の写真でも胃拡張と共に盲腸以下のガス貯留が著しいです。
胃拡張と共に盲腸が空虚で盲腸ガスが貯留している場合は、長時間の食欲廃絶を意味します。
胃内がガスだけであれば、胃カテーテルを挿管してガス抜きをする選択肢もあります。
しかし今回、胃内容物が確認されていること・月愛ちゃんの状態が良くないことから緊急の開腹手術を行うこととしました。
点滴のための留置針を入れます。
イソフルランでガス麻酔で維持麻酔を行います。
術野をカミソリで剃毛しています。
下写真から下腹部が大きく腫れているのがお分かり頂けると思います。
腹部正中線にメスを入れます。
腹筋切開と共に膨満した胃が認められました。
胃を体外に牽引するために支持糸をかけます。
胃にメスを入れます。
胃内に吸引器の先端を入れます。
胃内の胃液や内容物を取れる範囲で吸引します。
その後、胃内の内容物を全部摘出して行きます。
毛が絡んだ内容物が胃内に貯留しています。
胃内容物を摘出した後に、胃内を生理食塩水で洗浄します。
何度か生理食塩水を注入して胃内洗浄を繰り返します。
洗浄後、胃壁を縫合して行きます。
モノフィラメント縫合糸を用いて、胃壁を全層貫通して単純結節縫合を行います。
腹筋を縫合します。
最後に皮膚縫合を実施します。
無事、手術は終了しました。
摘出した胃内容物です。
細かな被毛が多量に内容物内に混在しています。
術後1時間の月愛ちゃんです。
水を飲めるようになりました。
その後の月愛ちゃんは食欲も出て来まして、活動的に動き回れるようになりました。
術後3日目のレントゲン写真です。
食欲も改善し、胃腸内の内容物も充実しています。
胃拡張をもたらしたガスは認められません。
全身を伸ばしてリラックスしています。
術後1週間で退院前の月愛ちゃんです。
RGISは初動の対応を誤ると死に直結する場合があります。
何度も過去のブログにコメントしてますが、24時間以上絶食が続くのはウサギとしては異常事態であることを忘れないで下さい。
その場合は、速やかに動物病院を受診して下さい。
腹部レントゲン撮影をし、結果によっては消化管造影をするなり、ガス貯留の程度によっては胃カテーテルでガスを抜去するか、あるいは重傷なRGISの場合は今回の様に胃切開して胃内容物を取り出す必要もあります。
いづれにせよ、緊急処置であることに変わりありませんので、ウサギの飼主様はよくよくウサギの状態を常日頃から観察する習慣をお持ちください。
月愛ちゃん、お疲れ様でした!
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