こんにちは 院長の伊藤です。
生物は、何らかの疾病に罹患すると症状として
食欲不振が現れます。
犬や猫などの哺乳類なら食欲不振といっても、毎日食餌を摂るわけで、明らかに今日は一日食欲がないと見ていれば分かります。
ところが、爬虫類になりますと1、2週間に1度の食餌が日常になりますから、食欲不振の指標が非常に不明瞭となります。
本日は、食欲不振から手術に至ったヒョウモントカゲモドキの症例です。
ヒョウモントカゲモドキのマメちゃん(推定年齢2歳、雌)はこの1か月まったく食餌を摂っていないとのことで来院されました。
マメちゃんの両眼は窪んでおり、脱水の進行が認められます。
ヒョウモントカゲモドキの健康のバロメーターとされる尻尾のプリプリした膨らみもなく、萎んだ状態になっており、栄養不良が伺えます。
腹部を触診すると腹部両側が腫大しているのが判明しました(下写真黄色矢印)。
軽く腹部を圧迫すると総排泄腔から膿が出て来ました(下写真黄色丸)。
レントゲン撮影を実施しました。
黄色矢印は卵を示しています。
卵の拡大写真です。
マメちゃんはおそらく1か月以上前から卵閉塞の状態に陥っていた可能性があります。
爬虫類の場合、低カルシウム血症や卵管の収縮不全のために卵閉塞なることは稀です。
むしろ卵管や総排泄腔を物理的に通過できなくなることが卵閉塞の原因とされます。
卵が大きすぎたり、骨盤が狭くて卵が通過できなかったり、卵の表面が凸凹して卵管内を円滑に下降できない等です。
マメちゃんの場合は、卵が骨盤と比較して過大であることが卵閉塞の原因と思われます。
内科的療法で対処するステージではなく、外科的に卵を摘出する必要があると感じました。
食欲不振や脱水も進行していますので、麻酔のリスクもあり慎重に手術を実施させて頂きました。
イソフルランを吸入させるため麻酔導入箱に入ってもらいます。
ほどなくマメちゃんは麻酔が効いてきました。
マメちゃんの口にマスクを付け維持麻酔に切り替えます。
腹部を消毒して開腹手術に移ります。
小さなヒョウモントカゲモドキとはいえ、皮膚の鱗はメスで直線に切るのは硬く慎重さが要求されます。
皮膚を切開し、卵管にアプローチします。
卵の直上からメスで卵管に切開を入れます。
卵を鉗子で把持して摘出します。
卵の卵殻は非常に柔らかく強い力を加えると破れてしまいそうです。
卵管内は膿が貯留しており、腐敗臭を伴っています。
卵管内を洗浄して縫合します。
最後に皮膚を縫合します。
同じ要領で反対側も対処していきます。
両側の卵を摘出するとマメちゃんのお腹はペッちゃんこになりました。
腹腔内の大部分を卵が占有してしまい、消化管は圧迫され食欲がないのは頷けます。
下写真は摘出した卵です。
全長は30?もありました。
卵殻は非常に柔らかく、十分なカルシウムが卵殻に分泌されていないようです。
個体が卵を持つ以前の飼育環境と個体の栄養状態によって、卵閉塞が引き起こされる場合も多いです。
手術終了直後のマメちゃんです。
補注類は変温動物ですから、麻酔により低体温になりますのでしっかり保温します。
意識が戻ってきたところでブドウ糖や抗生剤を与えます。
麻酔から覚醒がスムーズにできるか心配していましたが、問題なく覚醒できました。
爬虫類の外科手術後の管理は非常に大変です。
手術のストレスで拒食に陥ることも多く、哺乳類の様にシンプルなものではありません。
非常に残念ながらマメちゃんは退院後に急逝されました。
術前に既に栄養状態が悪かったことも、術後のストレスに耐えられなかったことの原因かもしれません。
爬虫類や鳥類に多いとされる代謝性骨疾患(MBD)にマメちゃんは罹患していた可能性があります。
卵閉塞は、飼育の不備、不適当な温度管理、不十分な食事内容、脱水、産卵前の感染やその他ストレスなどの原因が複合的に重なってにおこるとされます。
日常から食事や飼育環境を十分に整えて、自力で産卵できる健康状態を維持し、事前に十分な産卵環境を整えてあげることが重要です。
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