こんにちは 院長の伊藤です。
ハリネズミがペットとして定着した感があるこの数年、雌のハリネズミの血尿の来院数が増えています。
これはウサギにも言えることですが、性的に成熟を迎えた4歳以降に産科系疾患(特に子宮疾患)が増加します。
犬猫と異なり、血尿イコール膀胱炎といかないのが、エキゾチックアニマルの世界です。
本日、ご紹介させて頂きますのはそんなハリネズミの血尿で開腹手術して子宮内膜過形成・子宮内膜炎が原因であった症例を紹介します。
ヨツユビハリネズミのハリーちゃん(雌、2歳、体重500g)は3週間ほど前から、排尿時に多量の血尿が認められるとのことで来院されました。
下写真のように新鮮血が尿中に出ています。
ハリネズミはなかなか触診をさせてくれない動物です。
非常にデリケートで直ぐに体を丸めて防御態勢に入ります。
そうなると、積極的な精密検査は出来なくなります。
せめて、レントゲンを撮って下腹部の状態を把握することにします。
血尿から、おそらくは子宮疾患であろうと推測してレントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸の箇所が子宮が腫大しているのを示しています。
飼い主様の希望もあり、状況次第で卵巣・子宮摘出する予定で試験的開腹を実施することになりました。
麻酔導入箱に入れて寝て頂きます。
ハリーちゃんはふらつき始め、起立姿勢が取れなくなってきました。
導入箱から出てもらい、手製マスクでイソフルランガスを送り込み、全身麻酔します。
患部を剃毛します。
続いて点滴をするために、橈側皮静脈に留置針を入れます。
点滴を開始し、麻酔モニターのセンサーをセッティングします。
これで手術の準備完了です。
皮膚にメスを入れます。
開腹直後に腹腔内から腫脹した子宮(下写真赤丸)が突出してきました。
子宮が飛び出るときの腹圧で、子宮内の貯留血が草色矢印の外陰部から多量に出血(黄色丸)しました。
下写真の子宮ですが、子宮自体は貧血色(薄いピンク)でところどころ貯留した血液が暗赤色を呈しています。
その一方で膀胱(下写真黄色丸)は正常で、膀胱壁の肥大もなく出血もありません。
以上の所見から、度重なる血尿は子宮から出たものであることが判明しました。
卵巣・子宮を摘出することとしました。
バイクランプで主要な血管をシーリングしていきます。
下写真は子宮間膜をメスで切開しているところです。
無事に卵巣・子宮を摘出し、腹筋を縫合します。
皮膚縫合して手術は完了です。
イソフルランガスを止めて酸素吸入を維持して、覚醒を待ちます。
5分ほどで、ハリーちゃんは覚醒しました。
出血が手術前までに多量にありましたので手術のリスクも大きく、生還をかけた手術でした。
何とか無事に手術終了です。
術後はしっかり食餌を取り、血液を増やしてもらいます。
体重500gの小さな体なので点滴のための留置針プラグが大きく感じられます。
出血がありましたので点滴は重要です。
摘出した子宮ですが、切開して子宮内部の確認をします。
子宮壁を切開しますと、中から薄茶色の塊が出て来ました。
この塊を取り出し、スタンプ染色を実施しました。
下写真はその顕微鏡像です。
塊自体はすでに壊死を起こした子宮内膜で、その壊死巣が剥離したものと思われます。
この塊以外の子宮の内膜部をスタンプしたのが下写真です。
中央部に認められる子宮内膜細胞が増殖しており、その一方で黄色丸に多数の細菌が認められます。
子宮腺癌と思しき腫瘍細胞は認められませんでした。
以上の点から、始めに細菌性子宮内膜炎を起こし、子宮内膜過形成が生じ、壊死が進行する中で内膜が剥離していき、出血が起こったと考えられました。
術後のハリーちゃんの経過は良好で食欲もあります。
3日後に退院して頂きました。
下写真は退院当日のハリーちゃんです。
雌のハリネズミは、ウサギ同様血尿が認められましたら、子宮疾患の疑いがあることを認識して頂くようお願い致します。
今回のハリーちゃんは、子宮腺癌は関係ありませんでした。
ハリネズミの子宮疾患は、子宮内膜炎を初めとして子宮内膜過形成、子宮水腫、子宮蓄膿症など様々です。
過去にも、死亡後の剖検所見で子宮腺癌が判明したケースを経験しています。
そのハリネズミは残念ながら出血多量により死に至りました。
血尿が認められたら、早め早めの受診をお勧めします。
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