フェレットのインシュリノーマ
2015-01-24 10:02
有限会社もねペットクリニック
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こんにちは 院長の伊藤です。


本日ご紹介するのは、フェレットのインシュリノーマという疾病です。

インシュリノーマとは、腫瘍化した膵臓細胞から過剰なインシュリンが分泌されて低血糖を引き起こす腫瘍疾患です。

以前に報告したようにフェレットは、インシュリノーマ、副腎腫瘍、リンパ腫の発症率が高く、いわゆるフェレットの三大腫瘍と呼ばれています。



フェレットのうにちゃん(避妊済、6歳)は起立不能、てんかん様発作が酷いとのことで来院されました。

診察したところ、うにちゃんは視線も定まらず、ぐったりしています。

以前から、うにちゃんはインシュリノーマの治療を当院で受けてみえます。

治療薬(プレドニゾロン)も継続して内服して頂いているのですが、少しずつ効果が弱くなってきているようです。



インシュリノーマの臨床症状として、流涎(よだれ)・前足で口を掻く・後足のふらつき・運動失調・うつろな眼差し・痙攣・錯乱・虚脱などが挙げられます。

重度の低血糖が長時間持続すると、神経細胞のブドウ糖欠乏や大脳の低酸素症による不可逆性の大脳病変を生じるとされます。

したがって、酷い低血糖症であれば速やかに血糖値を上げないと命に関わることになります。

うにちゃんの血糖値を測定したところ、血糖値が測定不能(Lo)と簡易血糖値測定器が表示しました(下写真)。



上写真のデジタル血糖値測定器は20〜600mg/dlの血糖値を測定できます。

特に低血糖でショック状態では採血量も十分取れませんので、わずか一滴の血液で測定可能なので便利です。

うにちゃんの血糖値は20?/dl未満ということになります。

フェレットの正常な血糖値は94〜207?/dlと報告されています。

血糖値が60mg/dl以下であれば、インシュリノーマと仮診断されます。

本来、ここでインシュリノーマの仮診断をして、外科手術により膵臓の病変部を摘出して病理検査に基づいて確定診断をするのが本筋です。

しかしながら、外科手術に踏み切るケースは少なく、飼主様的には内科的治療を希望されるケースが多いのも実情です。

したがって、臨床症状と血糖値の低下からインシュリノーマと仮診断をして治療をスタートさせて頂くケースが殆どです。


さて、うにちゃんは低血糖症が高度に進行しているようですから、ブドウ糖の点滴で血糖値を上げる治療を早急に始めます。

まず、うにちゃんに低血糖症によるショック状態を改善するため、プレドニゾロンを皮下注射します。

次に前足に静脈点滴を施します。

前足の橈側皮静脈に24G の留置針を入れます。



点滴が出来るようにプラグを装着します。





この状態で20%のブドウ糖を2ml、このプラグから投与します。



次いで、この状態で5%ブドウ糖が添加されているリンゲル液を静脈内点滴して経過を診ていきます。



うにちゃんはブドウ糖を応急処置で投与しても、すぐには改善は見られず起立不能、てんかん発作の状態が続きます。



念のため、当院のICUのケージに入ってもらいました。



小一時間経過したところ、少しうにちゃんに動きが認められます。



このころには、間欠的な痙攣もおさまり、視線もある程度定まってきました。



翌日のうにちゃんです。

元気にケージ内を暴れまわれるまでに回復しました。

自力で飲水や食餌も取れますので、点滴を外すことにしました。

昨日までのうにちゃんと違って、視線もカメラ目線を送ってくれています。







点滴の跡が痛々しいですが、退院して頂くこととしました。

うにちゃん、お疲れ様でした!



インシュリノーマと診断されたフェレットには、良質な動物性蛋白質と脂肪を多く含む食餌を中心に与えるようにして下さい。

フェレットにコーンシロップ、ピーナツバター、フェレットバイトなどの糖類を多く含んだ嗜好品を与える飼主様も多いです。

その中でインシュリノーマになったフェレットを持つ飼主様は、絶えず低血糖状態と思い込んでこれらの嗜好品を与える方も少なからずお見えです。

しかし、糖類を摂取することで血糖値が急激に上昇し、リバウンドによるインシュリンの放出が促進され、急激な低血糖を引き起こす可能性があることを忘れないでいただきたいと思います。

つまりは、インシュリンノーマに罹患したフェレットには糖類を多く含んだおやつは与えないことです。


インシュリノーマの内科的治療はプレドニゾロンが第一選択薬となります。

プレドニゾロンは末梢組織におけるブドウ糖の取り込みを阻害します。

その結果、肝臓における糖新生を増加させる事によって末梢血中の血糖値を上昇させます。


ただこのプレドニゾロンも最初は低用量から始めても、いずれコントロールが出来なくなる時期がやって来ます。

その場合は、プレドニゾロン単剤でなくジアゾキシドという薬を併用する必要も出て来ます。

ジアゾキシドは腎不全や心不全のある個体には副作用がある場合もあり、慎重な投薬が望まれます。

プレドニゾロンと比較して高価な薬のため、飼主様に経済的な負担がかかることも付け加えておきます。


最後に内科的治療のみを行ったフェレットの平均生存期間は219日、摘出手術を併用した場合は462日という報告があります。

外科的手術も選択肢に入れても良いと思います。



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