こんにちは 院長の伊藤です。
本日はヘビの便秘についてコメントさせて頂きます。
ボールパイソンのハローちゃん(6か月齢、性別不明)は、食欲はあるのだけれど4週間近く排便がないとのことで来院されました。
多くのヘビの給餌は、ピンクマウスを与えるケースが多いかと思います。
大雑把に給餌の目安は、ヘビの頭3個分の大きさのピンクマウスを1回分の給餌量とします。
最初の1〜2年は週に2回与え、それ以降は週に1回、成体になれば10日に1回の給餌とします。
特に幼体期は食べさせるだけ食べさせて、体を大きくさせる必要があります。
排便も摂食量に応じて、量も回数も変動します。
ただ今回のように排便が4週間以上ないようですといわゆる便秘状態と考えられます。
鳥類や爬虫類は
総排泄腔という一つの穴から排便、排尿、産卵を済ませるという解剖学的構造をしています。
念入りに体を触診しますと総排泄腔の少し上に硬い腫瘤の存在を触知しました。
下写真黄色丸が総排泄腔です。
下写真黄色矢印が少し赤みを帯びており、触診で硬い腫瘤が認められる部位です。
そして黄色丸が総排泄腔です。
この矢印の部位を優しく圧迫を加えながら、硬い腫瘤を総排泄腔へと誘導していきます。
丁度イメージとしては、鳥の卵詰まりの圧迫排卵の感じと言えばよいでしょうか。
まず、白い塊が出てきました。
これは尿酸です。
次に茶色い塊(下写真黄色丸)で排出されました。
これが、今回の便秘の原因かもしれません。
非常に硬い結晶体のようです。
続いて、再度尿酸が出て来ました。
下写真の草色矢印は尿酸(白色の排泄物)。
黄色矢印は硬い結晶(触ると非常に硬い石のようなもの)です。
尿酸と硬い結晶を排出した後、赤丸の糞便、そして尿が多量に出て来ました。
この硬い結晶の詳細を確認するために、砕いて顕微鏡で検査しました。
下写真は低倍率のものですが、尿酸の結晶体が確認されます。
さらに高倍率です。
ボールパイソンは定期的に尿酸を排泄します。
そもそも尿酸は、ヘビの体内でタンパク質代謝の結果生じる窒素化合物です。
尿酸は尿管を通過して腎臓から総排泄腔へと送り込まれます。
総排泄腔内で尿酸は白い粘液様のペーストとして、その一部が体内に再吸収されます。
今回は、たまたま尿酸ペーストの再吸収が進行して、硬化が進んでしまったものかもしれません。
あるいは、蛋白質の過剰摂取により、析出した尿酸がカルシウムと結合して結石を形成したのかもしれません。
尿酸の結石(尿酸塩)が犬では、ストルバイトやシュウ酸カルシウムと同様、尿石症の原因となる場合があります。
ただヘビの場合は総排泄腔での排泄になりますから、犬や猫であれば尿路結石となる尿酸塩が、今回は総排泄行のすぐ手前まで降りてきて
総排泄行の閉塞(便秘)に陥った可能性があります。
ヘビの一般的な便秘(消化管内の糞便の停滞の場合)の原因は以下のように考えられています。
1:過食で運動不足
食欲は個体差がありますが、前述したように給餌量は適切に守ること、加えて狭いケージですと個体は運動不足に陥りやすくなります。
2:飼育環境の温度・湿度が低い
この場合、ヘビは体をパネルヒーターなどの熱源に巻き付いて、腹部を高温で温めることになり、結果便は硬化して石のように固くなり便秘に至ります。
便秘の治療法は
1:環境の改善
広いケージを用意する。
ケージ内の空気を乾燥させる床材(段ボール、おが屑、木材)を撤収する。
加湿器をケージ内に入れる。
2:お湯に全身をつける
ひと肌のぬるま湯に1日1回15分ほど全身を浸漬させて、4〜5日継続することで消化管運動を促し排便を促進させる。
以上の点にご注意いただければと思います。
ハローちゃんは今回の便秘解除処置で、溜まっていた便や尿も一挙に出ましたが、表情は爬虫類ですから変わりません。
爬虫類の場合は食欲不振(拒食)にしても便秘にしても、哺乳類の様に表情に現れませんし、むしろ隠す傾向がありますので要注意です。
今年も無事、診察を終えることが出来ました。
来年も皆様のペット達が健康に暮らせますことを祈念いたします。
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