こんちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはカメの
ビタミンAが欠乏して起こる「
ハーダー氏腺炎」という疾病です。
実はこの疾病は日常的に遭遇することが多いです。
アカミミガメのRUNA君(3歳、雄)は、両側性の瞼の腫れで眼が開かないとのことで来院されました。
上写真のRUNA君の眼を拡大します。
高度に瞼が腫脹しています。
両瞼が炎症(眼瞼炎)をおこしており、浮腫も伴っています。
RUNA君は眼を開けることができませんので、餌を満足に食べることが出来ません。
RUNA君の瞼を綿棒を用いて優しく開眼させます。
良く診ますと瞼内にクリーム状の膿が溜まっていました。(下写真黄色丸)
眼球を生理食塩水で洗浄処置を施しました。
なぜRUNA君はこのような疾病になってしまったのでしょうか?
それには、涙を産生する部位(涙腺)の構造から説明する必要があります。
今回の話題の
ハーダー氏腺は涙腺の一つなんですが、
第三眼瞼(瞬膜線)という構造物の中に存在します。
第三眼瞼(瞬膜線)は全ての動物に存在する眼球構造物です。
ハーダー氏腺は、カメを初めとした
爬虫類における主要な涙液分泌腺です。
この分泌液は脂を主体とする脂質腺液で、水棲動物の眼球をこの脂で守るという役目があります。
一方、犬猫などの哺乳類では、第三眼瞼腺(瞬膜線)が涙液分泌を担っている点が異なります。
そこで、カメの餌に含まれる
ビタミンAが不足すると
ハーダー氏腺の涙管、涙腺、結膜上皮細胞の変性が生じます。
それによって涙管などに変性組織が詰まってしまい、涙腺の分泌液が蓄積していきます。
結果的にカメの涙液分泌は減少していき、ドライアイを引き起こします。
以前、
犬のドライアイ(乾性角結膜炎)についてコメントしましたので興味のある方はご覧ください。
爬虫類も哺乳類と同様、ドライアイになりますと二次的細菌感染を受け、結膜炎となります。
さらに症状が進行すると、眼瞼の痙攣・眼瞼の浮腫そして眼瞼炎へと悪化していきます。
そんな現象がRUNA君の小さな瞼の中で展開されていたわけです。
治療ですが、第一にビタミンAの供給です。
魚の切り身やエビなどの生肉のみを与えているケースで発症することが圧倒的に多いです。
ビタミンAのような脂溶性ビタミンは過剰摂取に要注意です。
RUNA君にはこのビタミンAの内服と抗生剤の点眼薬を処方させて頂きました。
飼い主様にお願いして、暫くの通院で眼球の洗浄もさせて頂くこととしました。
加えて水質が悪化して、水中内の雑菌が増加してくると眼瞼炎・結膜炎が憎悪しますので、水質に絶えず気を使っていただくようお願い致しました。
下写真は3週間後のRUNA君です。
瞼の炎症も治り、眼元がスッキリしているのがお分かり頂けると思います。
一般的なカメ用の配合飼料や小魚などの生餌を食していれば、このビタミンA欠乏症にはなりにくいと考えられています。
初期のハーダー氏腺炎であれば、適切な餌とビタミンAで治せます。
しかし、瞼が開かない状態まで進行した場合は、専門の治療をしない限り治療が困難になることも多いです。
瞼が少し腫れて、食欲不振に気づいたら、動物病院の早期受診をお勧めします。
幼体でこのハーダー氏腺炎に罹患しますと、食餌が不可能なため体力消耗が著しく死亡することが多いため、たかがビタミン不足と侮らないでくださいね!
RUNA君の飼主様は、治療に非常に熱心な方で短期間で回復されて良かったです。
RUNA君、飼い主様、お疲れ様でした。
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