ウサギにはいろんな皮膚腫瘍(乳頭腫、基底細胞腫、扁平上皮癌、毛芽腫など)があります。
以前にも
ウサギの毛芽腫についてコメントさせて頂きました。(興味のある方は
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本日ご紹介しますのは、その皮膚腫瘍の中でも線維腫と言う良性の腫瘍です。
ウサギのパン君(10歳、雄)は数か月前くらいから胸腹部の腫瘤が大きくなってきたとのことで来院されました。
ウサギで10歳となるとヒトの80歳から90歳の年齢層になります。
触診してみますとかなりの大きさの腫瘤です。
おそらく腫瘍と思われました。
パン君は胸の毛がしっかり生えていますので外貌を写真で写してもわからないと判断して、話は前後しますが手術時の剃毛後の患部写真(下)をご覧いただきます。
2〜5cm以上の腫瘍が合体してとても大きくなっています。
実際、パン君が伏せの姿勢でいると床面との干渉があり、ストレスになっているようです。
まずは患部の細胞診を実施しました。
コラーゲンを作る繊維芽細胞が過剰に増殖しておこる腫瘍を線維腫と言います。
パン君はこの線維腫であるとの診断を病理医から頂きました。
この線維腫と似た腫瘍に線維肉腫という悪性腫瘍がありますが、今回のパン君は良性の物ですから年齢との関係で外科手術を強行すべきか悩みました。
非常に熱心な飼い主様で、外科手術を希望され、慎重に腫瘍摘出手術を行うことになりました。
広い範囲にわたる皮膚の切除が必要となると思われました。
高齢のウサギの麻酔で問題となるのは、呼吸管理です。
ウサギは鼻呼吸を基調として、腹腔に対する胸腔の割合が著しく小さいこと。
口腔が小さく、軟口蓋が気管開口部を覆うように位置していることが長時間の麻酔管理を難しくしています。
1分でも早く確実に手術を終了させなければなりません。
イメージ的には下写真黄色丸のエリアを全て腫瘍のマージンを含め切除します。
電気メスで血管を止血しながら皮膚切除していきます。
この腫瘍は思った以上に深く浸潤しており、胸部皮筋に及んでいました。
腫瘍の最深部は石灰化が起こっており、非常に摘出が難しくなってます(下写真)。
メスを入れた各部位からジワジワ出血が始まります。
下写真は、摘出後の腫瘍です。
腫瘍を全摘出後の患部です。
皮膚欠損は広範囲に及びます。
患部の縫合後の皮膚緊張が大きくなることから、ステンレスワイヤーで縫合しました。
下写真をご覧いただけるとステンレスワイヤー縫合でも、皮膚が緊張しているのがお分かり頂けると思います。
麻酔覚醒直後のパン君です。
麻酔覚醒して10分と経たない状況でパン君はチモシーを食べ始めています。
10歳とはいえ、基礎体力と気力によるところが大きいですね。
パン君は術後の経過も良好で、2日後に退院していただきました。
10日後に抜糸のため来院されたパン君です。
傷口もいい感じで治っているようです。
抜糸させて頂きました。
線維腫の場合、皮膚広範囲に及ぶ浸潤も珍しくありません。
ウサギは、もともと体表面積が小さい動物ですから、皮膚腫瘍は術後の皮膚癒合が一番問題となります。
今回はストレス軽減のため、パン君はエリザベスカラーの装着はしてませんので、術後自咬による患部の傷が開かないのを祈念します。
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