チンチラはモルモットと同じく完全草食動物です。
その寿命は10~15年とも言われ、エキゾチックアニマルの中では際立って長寿な齧歯類です。
そんなチンチラですが、バランスを欠いた食餌内容の不備から消化器疾患が多発する傾向があります。
胃から腸までの消化管の長さは全長2.5mから3.5mあるとされ、一旦消化器疾患に陥ると腸管蠕動停止に始まり、食欲不振から死の転帰をたどるケースもあります。
本日ご紹介するのは、チンチラのシノちゃん(6歳7か月、雌)です。
突然の嘔吐から食欲不振でぐったりしているとのことで来院されました。
以前からシノちゃんはカーペットの線維をかじる傾向があり、異物誤飲の可能性もあるかもしれないとのことでした。
もともとウサギと同様、モルモット、チンチラは嘔吐をすることができない解剖学的構造をしていると言われます。
それでも胃の疾患が高度に進行すると、餌を食べた直後に吐き戻しをする症状は何例か私自身診たことがあります。
まず、レントゲン撮影を実施しました。
黄色丸に示した胃に内容物とガスが貯留しているのがお分かり頂けると思います。
加えて盲腸部にもガスが貯留しています。
強制給餌をしても口から流動食を吐き戻すとのことで、シノちゃんも軽度のショック状態になっています。
腸蠕動亢進薬や消泡薬を投薬して経過をみるという内科的アプローチではこの局面を打開できないと判断しました。
胃を切開し、胃内容物を摘出して胃を一旦洗浄することとしました。
シノちゃんに全身麻酔をかけます。
皮膚・腹筋を切開したところ、いきなり胃が飛び出してきました。
胃内容物が溜まっているのが分かります。
胃を切開します。
胃内には毛球、未消化の線維(カーペット)やドライフルーツ等、様々な内容物が入っています。
鉗子で取り除いた胃内容の一部です。
上手く取れない内容物は生理食塩水で胃内洗浄して吸引器(下写真)で吸引しました。
切開した胃を縫合します。
腹膜・腹筋を縫合します。
齧歯類は術後患部を齧る傾向にありますので、咬めないようにステープラーで縫合します。
手術当日は、沈痛な表情のシノちゃんでしたが、翌日になると食餌にも関心が出て来ました。
青汁を少し飲んだりできるようになりました。
さらに術後3日目です。
インキュベーター内で入院してもらっていますが、窓からかを出して脱出を試みようとします。
術後5日です。
既にインキュベータ内を駆け回れるくらいに回復してきました。
術後6日目です。
食欲もかなり出て来ました。
ペレットもチモシーもいい感じで食べてくれます。
チンチラはウサギと比較しても非常にデリケートな印象があります。
今回は食餌の内容物が胃内で停留して、いわゆる食滞という症状を示していました。
胃および盲腸内にもガスが貯留していましたが、シノちゃんはおそらく食滞による疼痛で食欲不振であったと思われます。
食滞に至る原因は様々です。
低線維、高蛋白・高脂肪食、異物の摂取、ストレス等が引き金になって胃腸の蠕動が抑制されます。
口に餌が入った端から、嘔吐するくらいですから胃内は未消化の内容物で一杯であったと思われます。
このまま内科的治療にこだわっていたら、高度の衰弱・ショック状態から脱却できずにいたことでしょう。
外科的に胃切開を実施するか、内科的治療を継続するかの判断が、齧歯類の食滞には要求されます。
判断ミスが無いように注意深い診断が要求されますので、毎回苦悩すること頻りです。
術後7日で退院当日のシノちゃんです。
元気に退院できて良かったです!
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