血糖とは血液中のブドウ糖濃度のことを示します。
例えば、糖尿病は基準となる血糖値を上回る高血糖の状態が持続する疾病です。
一方、
低血糖とは正常の血糖値が維持できなくて低下した状態を指します。
血糖は、つまるところ細胞にとってのエネルギー源です。
低血糖になるとエネルギー枯渇により、細胞活動が停止に追い込まれ、ひいては死につながる怖い状態です。
本日、ご紹介しますのは低血糖に陥った仔犬のお話です。
つい先日、チワワのコムギちゃん(3か月齢、雌)は起立不能になったとのことで来院されました。
既にショック状態になっており、心音も微弱で歯茎も真っ白です。
飼い主様が外出先から帰宅したら、コムギちゃんが倒れていたとのこと。
以前から、コムギちゃんは食が細かったという点から低血糖症を疑いました。
真っ先に血糖値を測定しました。
頸静脈からの採血も血圧低下のため、上手く血液が注射器に吸引されません。
十分な血液が採れなかったため、簡易型の血糖値測定器で測定したところ、Lo表示と出ました。
Lo表示は血糖値20mg/dl以下です。
いわゆる低血糖は犬では、60mg/dl以下を指します。
明らかな低血糖に陥ってますから、まずはブドウ糖を口へ直に流して飲ませます。
コムギちゃんはまったく嚥下することが出来ません。
誤嚥しては大変ですから、静脈からブドウ糖を点滴することとしました。
前肢の橈側皮静脈から留置針を試みましたが、ショック状態で不可能です。
頸静脈からアプローチします。
何とか留置には成功しました。
この状態でブドウ糖の点滴開始です。
ICUの入院室に入り、点滴開始から約5時間経過したところ、コムギちゃんが突然立ち上がりました。
流動食のミルクを注射器で口に持っていくと飲んでくれました。
このまま点滴を続けて、経過を見ていきます。
翌日になり、コムギちゃんは自分で歩行可能な状態まで回復してました。
声をかけると反応し、尻尾もちゃんと振れるようになりました。
邪魔な点滴も外すこととしました。
入院室に戻すと早速、流動食のミルクを飲んでいます。
血糖値も正常に戻り、安定した状態に戻りました。
低血糖後の神経症状(運動失調、てんかん様発作等)もなく、自然な歩行が出来ています。
新生児や幼若動物は、代謝系がまだ出来上がっていなくて、ブドウ糖を作り出す能力が未発達な状態です。
加えて肝臓のブドウ糖が集積されたグリコーゲン貯蔵も少ない状態です。
そのため、
飢餓や低体温、輸送ストレス等で簡単に低血糖になってしまいます。
低血糖になるとまず、脳が一番に障害を受けます。
脳という組織はエネルギー源として多量のブドウ糖を必要とします。
他のエネルギー源をブドウ糖に変換して利用することもできません。
さらに脳組織はグリコーゲンをほんの少ししか貯蔵できません。
結局、低血糖のほとんどの症状は中枢神経系の機能障害に関連します。
つまり衰弱、虚脱、痙攣、運動失調という症状がおこります。
また上記の中枢神経系の症状に先立って、低血糖に対する反応として交感神経刺激による
振戦(ふるえ)や神経過敏、興奮といった症状が出る場合もあります。
以上の点を踏まえて、もしご自宅の仔犬が低血糖と思しき症状を示したら、
蜂蜜や砂糖水を仔犬の歯茎・舌下に塗り込んで糖分を吸収させて下さい。
これで数十分内に回復が認められたら大丈夫です。
今後は、食事回数を増やして一日4回くらいにして下さい。
あとは食餌と食事の間隔を開けないこと、空腹時に激しい遊びをさせないことを守って下さい。
もし、砂糖水を与えても症状が回復しないようなら、急いで最寄りの動物病院で診ていただくようお願い致します。
コムギちゃんは、入院翌日の夕方に無事、退院されました。
コムギちゃん、頑張ったね!
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