ヒトの腫瘍の闘病と同様、腫瘍に罹患した動物の闘病も辛く大変です。
飼い主様と動物、そして我々病院スタッフとの2人3脚で治療を進めていきます。
寛解といって、腫瘍を殺して治癒できれば良いのですが、人医同様、獣医の世界もまだ負け戦となることが多いです。
それでも、たいせつな家族であるペットに、少しでも腫瘍の苦しみから解放してあげたいというのが飼主様の切なる思いです。
猫のナナチャン(雑種、9歳、雌)は顔面がただれて眼がみえない状態であると来院されました。
顔面の左半分が原形をとどめないくらいにただれて、眼球はあらぬ方向を向いています。
交通事故などによる外傷ではなく、時間をかけて少しづつこのような状態になったとのこと。
まずは、レントゲン撮影をしました。
皮膚の一部が石灰化していますが、頭蓋骨・顎・歯根部への病変は認められませんでした。
鎮静をかけて患部から細胞診を行いました。
下写真は低倍像です。
次いで高倍像です。
大型の扁平上皮細胞がたくさん認められます。
核は分裂を盛んに行っています。
加えて、細菌感染があり好中球も多数出現しています。
結論から申し上げれば、扁平上皮癌(グレード3)です。
悪性の腫瘍で、猫の場合は病巣がびらん状を呈することが多いとされます。
好発部位は鼻・眼瞼・耳介です。
治療法は外科的摘出のみか、放射線治療を併用します。
犬の場合もそうですが、この扁平上皮癌にあっては化学療法の有効性は確立されていません。
当院では、腫瘍の治療にあってはいくつかプランを提示して、飼主様の意向を尊重して治療指針を決定していきます。
今回、ナナちゃんの腫瘍は単独で独立したものではなく、外科的摘出は不可能です。
費用の点から放射線療法も継続できない点から、どの程度の効果はあるか不明ではありますが化学療法で進めて行くこととなりました。
犬の扁平上皮癌のがん細胞はシクロオキシゲナーゼ2(COX‐2)という酵素を発現しており、このCOX‐2を標的とする非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)による治療が試みられています。
猫での効果の程は不明ですが、費用も廉価で済む点から、NSAIDであるピロキシカムをしばらく投薬して頂くこととなりました。
7か月後のナナちゃんです。
左側の顔面のびらんが治まり(眼球の傷害はありますが)、右側の瞼と頬のびらんが発現してます。
8か月後の写真(下)です。
右側の顔面びらんが縮小してきました。
9か月後の写真(下)です。
10か月後の写真(下)です。
11か月後の写真(下)です。
ナナちゃんは、11か月前に比べて腫瘍がいい感じで抑えられています。
ピロキシカムの効果があったとみるべきでしょう。
このままいけば、完全寛解にたどり着くのではと淡い期待を持ちました。
しかし、この写真を撮った2週間後にナナちゃんは亡くなられました。
局所リンパに腫瘍が転移し、四肢に力が入らなくなり、食欲廃絶の結果でした。
最後はご家族に見守られての往生であったと聞きます。
癌治療を1年弱継続できたのは、ひとえに飼主様のナナちゃんへの愛情のたまものです。
ピレノキシンは扁平上皮癌の進行をある程度抑制できたと思っています。
この治療を継続された結果、ナナちゃんは1年弱延命でき、その間に飼主様はナナちゃんとの思い出も作れたと思います。
合掌
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