以前、熱中症について
熱中症に備えて という記事を載せました。
今年は30度を超す日が延々と続き、メディアも連日熱中症について取り上げていたため、飼い主様もご注意いただいているようで、犬の熱中症の症例はありませんでした。
しかしながら、つい先日、車の中にいて1時間弱の間に熱中症になられたワンちゃんがいます。
今回はこの熱中症のお話です。
Mix犬のキキちゃん(1歳9か月令、雌)は飼主様が車の中で冷房を入れたつもりで、実は送風モードであったようで、そのまま車中に置き去りにされました。
飼い主様が車に戻られた時点で、すでにキキちゃんは過呼吸で起立不能の状態でした。
下写真は急遽来院されたキキちゃんです。
写真ではこの状況は伝わりにくいかもしれませんが、呼吸が非常に荒く、口からは大量のよだれが溢れています。
加えて、立ち上がることもできません。
ヒトの熱中症の状態と近似しています。
キキちゃんのこの時の体温は43度です。
点滴のための留置針を静脈に入れて、体温を下げるために全身を水で濡らしたタオルで包みます。
さらに保冷剤を腋下や鼠蹊部に当てて、冷却します。
これらの処置で、1時間内にキキちゃんの体温は38度台に戻りました。
氷水等による急激な冷却は、体表部の血管を収縮させることで体熱の放散を抑制し、さらに体の振るえによる熱産生を促進し結果として、体温の下降を遅らせてしまいますので要注意です。
血液検査を実施したのですが、すでに血液の粘性は高くなり、黒ずんでいます。
肝臓機能を表すGOT値は、すでに測定不能を示しています。
意識も混とんとしていますので、脳浮腫を避けるために高用量のステロイドを投薬します。
高温下による脱水、そして末梢血管の拡張による低血圧を改善するために点滴を大量に送り込みます。
その後、キキちゃんは下痢・血便が出始めました。
高体温での消化管出血が起こっているようです。
それでも2時間くらいで、意識が戻り始め横たわって立ち上がれなかった体が、伏せの状態まで回復してきました。
当日は、夜間通して看病に当たりましたが6時間後には起立可能となりました。
結果として、2日間の入院でキキちゃんは無事退院されました。
飼い主様が速やかに病院にお連れ頂いたことと、キキちゃんが基礎体力があり若かったこともあり、大事に至らずに済んだと思います。
多くの熱中症患者は、体温が平熱に戻った後に多臓器不全を起こして死の転帰をたどるケースも多いことを認識して頂きたく思います。
キキちゃんは、まだ肝臓機能障害は残っておりますので、しばらく治療は必要となります。
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