精巣腫瘍は高齢犬で発生が高く、特に停留精巣では陰嚢内精巣の10倍以上発生率が高いそうです。
今回、ご紹介するのは11歳のシェルティのローリー君です。
数か月くらいの間で急に左側の精巣が大きくなり始め来院されました。
1歳未満の頃、特に発情を迎える前に去勢や避妊をお勧めしてはいますが、雌の場合は赤ちゃんを産ませないという必然性もあり積極的に手術を希望される飼い主様は多いのですが、雄の去勢については可哀そうだから止めます、という飼い主様(特に男性)も多いのが実情でしょうか。
去勢しないことで、中高年以降で多発する疾病の一つとして当院HPで会陰ヘルニアをご紹介しましたが、この精巣腫瘍もまさに未去勢犬で認められます。
ローリー君はこの大きくなった精巣のため、床の上で伏せの姿勢が上手にできなくなり、排尿排便にも不便を来すようになりました。問題解決のため、外科的に精巣を摘出することにしました。
下の写真にありますように黄色の円で囲んだ左側精巣の腫大が認められます。
メスで陰嚢基部を切開して総鞘膜ごと陰嚢から出します。
精管、精巣動静脈を縫合糸で結紮してメスで離断します。
次いで総鞘膜も腫瘍細胞が存在している場合も想定して、精巣と共に離断します。
傷口はこんな感じで手術は終了です。
摘出した精巣は左側は腫瘍化した精巣で右側は健常な精巣です。
この腫瘍化した精巣を病理検査に出しました。
下の写真はその病理標本(低倍率)です。
大小、不規則な形状の精細管様管状構造が多数認められ、その管状構造はセルトリ細胞様の細長い腫瘍細胞が密に内張りしています。
さらに高倍率の病理標本です。
セルトリ細胞様腫瘍細胞の間に細胞質の明るい胚細胞様細胞も存在しており、この腫瘍がセルトリ細胞と胚細胞の両者の腫瘍増殖によって形成されています。
病理専門医からこの特徴的な所見より、極めて稀な
性腺芽腫という精巣腫瘍であると診断が下されました。
犬の精巣腫瘍はセルトリ細胞腫、セミノーマ、ライデイッヒ細胞腫の3種類に大別され、多くが良性腫瘍であることが多いといわれます。
今回の精巣腫瘍は、これら3つのカテゴリーに分類されないタイプの腫瘍のようです。
ローリー君の腫瘍は現時点で腫瘍臓器、各リンパ節への転移は認められず、経過は良好です。
やはり、腫瘍になってから慌てるよりも早い時期に去勢することで、防げる病気です。
特に男性の飼い主様、ちびっこの頃の去勢手術は可哀そうだからという前に、ご一考下さいね。
老齢犬になってからの手術がいかに大変でリスクが高いか、ワンちゃん本人の気持ちになって下さい。
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