こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、異物誤飲の症例です。
毎回、各種の異物を犬は誤飲しますが今回は大型犬です。
大型犬の場合、一度に多量の異物を誤飲してしまうケースも多く、また常習的に誤飲する犬もいます。
シベリアンハスキーのホクト君(雄、10歳8か月)は軍手を飲み込んだとのことで他院にかかっていたのですが、嘔吐が続き良くならないとのことで当院を受診されました。
飲み込んだ異物にもよりますが、長い時間そのままで放置することは危険です。
エコー・レントゲンでお腹の中を確認しました。
下はレントゲン写真ですが、黄色丸の胃内には何か異物が存在しているのは明らかです。
加えて黄色矢印が示している十二指腸から空回腸の領域にはガスが貯留しています。
下写真は側面の状態ですが、黄色丸の胃には線維状の異物があるようです。
さらに赤丸の空回腸にはまた別の異物があるようです。
ホクト君は異物を誤飲してから数日は経過しているそうなので、早速試験的開腹を行うこととなりました。
気管挿管を行います。
大型犬のシベリアンハスキーなので手術台から頭一つ分はみ出してしまいます。
上腹部からメスを入れていきます。
最初に胃からアプローチします。
下写真の中央部に見えるのが胃です。
胃の4か所に支持糸をかけて胃にテンションを与えます。
血管があまり走行していない部位にメスを入れます。
胃切開直後に出てきたのは、黒い物体です。
摘出後に分かったのですが、ヘッドホンの耳当て(イヤーパッド)でした。
次に出てきたのは、飼主様も誤飲を認識していた軍手です。
この軍手を摘出して胃内はスッキリしたのですが、まだ胃内に硬い線維が触知されました(下写真黄色矢印)。
この線維は十二指腸へと入り込んでおり、空回腸まで及んでいるかもしれません。
十二指腸にメスを入れ、この線維の断端を鉗子で把持します。
ついでさらに下に位置する空腸近位端を引き出します。
写真にありますように空腸は中に入り込んだ線維物により、アコーディオンカーテンのように引っ張られて固まっています。
この空腸に切開をして、内容物を摘出することとしました。
このような線維状の異物を
線状異物といいます。
ホクト君は腸閉塞の状態にあります。
線状異物は腸を強い力で牽引して、腸の粘膜を傷害します。
場合によっては、腸が壊死を起こすこともあり慎重に摘出します。
数か所にわたり、空腸を切開して線状異物をリレー式に摘出します。
随分長い繊維が空腸まで降りていました。
メスを入れた複数個所を縫合します。
空回腸の腸間膜には下写真の黄色矢印にします点状出血が認められます。
線状異物により牽引された空回腸及び腸間膜の血管が破たんして出血したものと思われます。
胃も縫合します。
腹腔内を何回も洗浄して閉腹します。
手術終了後のホクト君です。
摘出した胃腸内異物です。
下の黒い物体がヘッドホンの耳当てです。
軍手です。
下写真の黄色丸が空回腸までダメージを与えた線維状の異物です。
ボロボロになった雑巾の端切れのようです。
これらの異物は胃腸内で長らく停留すれば、胃腸に障害を与えますし、腸内フローラを乱して腸内発酵を生じます。
その結果、腸内細菌の産生する毒素により腸性毒血症を引き起こし、ショック症状に至る場合もあります。
なぜこのような異物を摂食するのかは犬自身の性格や本能に根差す部分もあると思います。
しかしながら、口の届く範囲に食べて問題を起こしそうな物体は下げておくこと。
これが一番大切なことです。
異物誤飲は飼い主様の責任です。
退院時のホクト君です。
お疲れ様でした!
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